後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)は、シミの一種です。
シミの中でも肝斑などに比べて、皮膚の比較的深い所(真皮)にできます。
そもそも、シミには、日光性色素斑、そばかす、肝斑、後天性真皮メラノサイトーシスなど、さまざまなものがあります。
ADMは、肝斑と見た目が似ています。
そのため、間違った治療を行うと、「なかなかシミが治らない」ということになってしまいます。
それぞれのシミに対して最適な治療法があるので、治療前に正しい診断をすることが大切です。
今回は、後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)と他のシミの見分け方や最適な治療法についてわかりやすく解説いたします。
目次
後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)とは ?
皮膚のどれくらい深いところにできるか?
後天性真皮メラノサイトーシスでは、真皮とよばれる皮膚の深い部分にシミの原因となるメラニンを含んだメラノサイトが増殖します。
男女で、できやすさの違いはあるか?
圧倒的に女性に多く発生することが知られています。
何歳くらいでできるか?
多くの場合、20歳以上で発症します。
顔のどこにできるか?
ADMができる場所は、頬(ほお)、下まぶた、おでこの外側、こめかみ、鼻などです。
ADMの大きさと範囲は?
シミの形は、小さい3~7㎜程度の類円形のものから、広い範囲に出る大きいものまであります。
多くの場合は、左右対称性ですが、片側性のこともあります。
ADMの色は?
色は、灰色や灰褐色、褐色、濃い褐色などです。
自然に治るか?
後天性真皮メラノサイトーシスによるシミの場合には、時間の経過とともに変化しないことが多いです。
ADMとは何という英語の略?
後天性真皮メラノサイトーシスは、英語でacquired dermal melanocytosisと表記します。
頭文字を取ってADMと呼ばれることが多いです。
後天性真皮メラノサイトーシスの原因
後天性真皮メラノサイトーシスの原因は、現時点でも明らかになっていません。
いくつかの説がありますが、何らかの原因によってシミのもとになるメラニンを作る細胞(メラノサイト)が活性化されて、メラニンが産生されるのではないかと考えられています。
後天性真皮メラノサイトーシスと他のシミの見分け方
肝斑との見分け方
後天性真皮メラノサイトーシスのおでこの病変は、両方の外側にできる場合が多いですが、肝斑の場合にはおでこの中央または眉毛の上の部分にできる場合が多いです。
また、後天性真皮メラノサイトーシスは、毛が生えている部分に病変が広がることがありますが、肝斑ではそのようなことないといわれています。
上まぶたの病変は、後天性真皮メラノサイトーシスの場合には小さい点状であることが多いですが、肝斑の場合には爪の大きさ以上のことが多いです。
頬の病変も、後天性真皮メラノサイトーシスの場合には小さい斑状ですが、肝斑の場合には広い範囲にべたっとしたシミとして生じます。
ただし、後天性真皮メラノサイトーシスの重症例では、小さい斑状のシミがつながって、肝斑のようにべたっとした広い範囲のシミとして見られることもあります。
後天性真皮メラノサイトーシスは時間経過とともにシミが濃くなったり、うすくなったりする場合がありますが、肝斑は時間による変化が少ないといわれています。
注意点として、肝斑と後天性真皮メラノサイトーシスは合併することも多いです。
そのため、鑑別しにくいことも多いです。
日光性色素斑との見分け方
日光性色素斑によるシミは、大きさが様々で、日光がよく当たる部分にできます。
主に、顔や手の甲、腕、背中などにでき、色は茶褐色から黒色です。
顔全体にできる場合もあります。
シミと周りの皮膚との境界がはっきりしているという特徴があります。
そばかすとの見分け方
そばかすは、紫外線がよく当たる頬や下まぶた、鼻、腕、肩、手の甲などにできます。
大きさは1~5㎜で、薄茶色のシミです。
思春期に目立つようになり、中高年になると目立たなくなるという特徴があります。
後天性真皮メラノサイトーシスの治療法
後天性真皮メラノサイトーシスの治療法には、レーザー(ピコレーザー、Qスイッチレーザーなど)やトレチノイン、ハイドロキノン療法などがあります。
クリニックによって、治療法が異なることもあるため、予約時によく確認するようにしましょう。
レーザー
Qスイッチレーザー
Qスイッチレーザーは、照射するレーザー光のパワーが高いので、皮膚の深い所まで到達するという特徴があります。
また、Qスイッチレーザーは、破壊すべきメラノサイト以外の正常な皮膚には影響を及ぼしません。
後天性真皮メラノサイトーシスでは、皮膚の深い所である真皮にメラノサイトが増殖することにってシミができるので、Qスイッチレーザーのよい適応になります。
Qスイッチレーザーの中には、ルビーレーザーやアレキサンドライトレーザー、YAGレーザーなどの種類があります。
ピコレーザー
従来のQスイッチレーザーと比較して、レーザー1ショットの照射時間が短くなっている特徴があります。
それにより、熱による副作用を最小限にしつつ、強いパワーでADMやタトゥーなどの色素を壊すことができます。
トレチノイン・ハイドロキノン療法
皮膚の深い所に対する治療には、Qスイッチレーザーが有効ですが、より高い効果を得るためにトレチノイン・ハイドロキノン療法を併用することがあります。
トレチノインは皮膚の代謝を促進する効果があるので、皮膚の浅い所に存在するメラニンを強力に排出することができます。
ハイドロキノンは、メラニンの生成を阻害するため、シミを全体的に薄くするだけでなく、トレチノインやレーザー治療後の炎症による色素沈着を改善する効果を期待できます。
ただし、実際は、トレチノイン・ハイドロキノン療法のみですと、ADMに対する改善はほとんど肉眼レベルでは難しいです。
トラネキサム酸
トラネキサム酸は、後天性真皮メラノサイトーシスではなく肝斑に対する治療法で用いられる内服薬です。
肝斑と後天性真皮メラノサイトーシスの合併は多いことが知られており、肝斑の病変にQスイッチレーザー治療を行うと色素沈着を起こし、色素沈着が消えるまで数か月の時間がかかります。
そのため、後天性真皮メラノサイトーシスに対してQスイッチレーザー治療を行う前にトラネキサム酸の内服を行った方がよいと考える医師もいます。
レーザーによる後天性真皮メラノサイトーシスの治療の合併症
後天性真皮メラノサイトーシスの治療後に、色素沈着や色素脱失などの合併症が起こる場合があります。
色素沈着
色素沈着とは、皮膚の色が濃くなることです。
後天性真皮メラノサイトーシスの治療後に、皮膚の色素沈着が起こる場合があります。
特に、日焼けしやすい場所や皮膚がこすれやすい場所は色素沈着が起こる可能性が高いといわれています。
色素沈着を避けるためには、日焼けをしないように心がけ、洗顔やメイクの時に皮膚をこすらないようにすることが大切です。
色素沈着に対し、ハイドロキノンのような美白治療を行う場合もあります。
色素脱失
色素脱失とは、皮膚の一部の色が白く抜けることです。
色素脱失は一時的と考えられています。
レーザー治療を繰り返し行っている場合には、色素脱失を起こす可能性が高くなります。
後天性真皮メラノサイトーシスの治療における注意点
安心して後天性真皮メラノサイトーシスの治療法を受けるためにも、いくつかの注意点を理解しておくことが大切です。
肝斑の治療を先に行う
後天性真皮メラノサイトーシスと肝斑は合併することも多いです。
シミの診療経験のある皮膚科や美容皮膚科の医師でも、的確な判断に迷う場合もあります。
肝斑に対してレーザー治療をすると悪化することがあるので、肝斑に対する治療であるトラネキサム酸の内服を先に行ってから、後天性真皮メラノサイトーシスの治療を行うのも1つの方法です。
紫外線を避ける
後天性真皮メラノサイトーシスの治療法の前にも後にも、紫外線を避けた方がよいといわれています。
治療前に日焼けしていると、レーザーの光が日焼けした所に吸収されてしまうので、後天性真皮メラノサイトーシスによるシミまで届かない可能性があります。
また、治療後には日焼けによって色素沈着のリスクが上がるといわれています。
紫外線の強い日中の外出は極力避け、外出時にはサングラスや帽子、日傘、日焼け止めなどで紫外線対策をしましょう。
皮膚をこすらない
皮膚をこすると、色素沈着の原因になります。
治療後は、シャワー浴や軽い洗顔は可能ですが、なるべく皮膚をこすらないことが大切です。
特に治療後6か月間は、皮膚に刺激を与えないようにしましょう。
効果が出るまで時間がかかることを理解しておく
後天性真皮メラノサイトーシスの治療後に、希望したような改善が見られないと不安になる患者さんがいらっしゃいます。
レーザーによって破壊されたメラノサイトは徐々に皮膚の中で代謝され、吸収されます。
そのため、効果が出るまでに少なくとも数か月かかります。
後天性真皮メラノサイトーシスでは、約6~12か月の経過で治療後の炎症による色素沈着や破壊されたメラノサイトが消失し、病変が改善することを理解しておきましょう。
レーザー後にできる「かさぶた」を無理にはがさない
無理にかさぶたをはがすと、刺激になり、それが色素沈着の原因になります。
レーザー治療後にできるかさぶたは、約7~10日で自然にはがれます。
まとめ
後天性真皮メラノサイトーシスは、シミの中でも皮膚の深い所にメラノサイトが増えるシミです。
後天性真皮メラノサイトーシスに対する治療法には、Qスイッチレーザーやトレチノイン・ハイドロキノン療法があります。
肝斑などの他のシミを合併している場合も多いため、治療を始める前に医師に的確に診断してもらう必要があります。
治療後には、紫外線や皮膚の摩擦を避け、効果が出るまでしばらく経過を見るようにしましょう。
参考文献
形成外科 56:81-87, 2013.
Bella Pelle新薬と臨床 Vol2:44-46, 2017-8.
イチからはじめる美容医療機器の理論と実践‐第2版 121-122
シミの治療 第2版 葛西健一郎 16-45
ピコ秒レーザー最新治療ハンドブック 61-67