トラネキサム酸(トランサミン)は、おもに肝斑の治療に用いられる飲み薬です。
実は、肝斑以外のシミにも効果があることが分かっています。
また、トラネキサム酸には血栓などの知っておくべき副作用もあります。
ここでは、トラネキサム酸の肝斑への美白効果、肝斑以外のシミへの効果、使用方法、副作用などについて、わかりやすく解説いたします。
トラネキサム酸とは?
トラネキサム酸は、人工的に生成されたアミノ酸で、シミや肝斑に対するカプセルの治療薬として知られています。
また、炎症やアレルギーを抑える働きや止血作用もあるので、医療機関でさまざまな症状に対して幅広く使用されています。
トラネキサム酸が配合されている薬は、トランサミンとよばれます。
トラネキサム酸は、皮膚科や美容クリニックなどの医療機関での処方や市販薬で手に入れることができます。
トラネキサム酸にビタミンCとL-システインを加えたものは、「トランシーノ」という名前で市販されており、聞いたことのある方もいるかもしれません。
トラネキサム酸がシミに効くメカニズム2つ
トラネキサム酸が、なぜシミに効くのかを理解するために、まずどのようにシミができるのか説明します。
プロスタグランジンやロイコトリエンの産生抑制
私たちの皮膚の表面には、ケラチノサイトとよばれる細胞があります。
紫外線を浴びると、下の図のようにケラチノサイトからプロスタグランジンやロイコトリエンとよばれる炎症に関わる物質が作られ、色素細胞(メラノサイト)を活性化させます。
色素細胞は、シミのもとになるメラニンを作る細胞です。
トラネキサム酸は、プロスタグランジンやロイコトリエンの生成を阻害するので、メラニンを作る色素細胞の活性化が抑えられ、シミに効くと考えられています。
プラスミンの働きの阻害
また、トラネキサム酸は色素細胞を活性化させるタンパク質であるプラスミンの働きも阻害します。
トラネキサム酸の抗プラスミン効果で、メラニンが発生しづらくなるのでシミの改善を期待できます。
トラネキサム酸の美白効果
ひとことでシミといっても、さまざまな種類があります。
シミの種類には、肝斑やそばかす、老人性色素斑などがあります。
トランサミンは、シミの中でも肝斑の治療でよく使われる飲み薬ですが、今までの研究結果ではそばかすや老人性色素斑、炎症後色素沈着のある患者に対しても効果があることがわかっています。
具体的には、肝斑患者がトラネキサム酸750㎎を8週間服用したところ改善率は60.3%だったそうです。
また、肝斑、老人性色素斑、炎症後色素沈着症の患者を対象にした研究では、トラネキサム酸を16週間服用したところ改善率は80.0%だったそうです。
美白治療薬として最も効果が高いのはハイドロキノンといわれていますが、皮膚の赤みやかゆみ、痛みなどの副作用で使用が難しい方もいます。
トラネキサム酸は、ハイドロキノンほどではないものの、一定の美白効果を期待できるので、ハイドロキノンの使用が難しい場合には検討してもよいかもしれません。
トラネキサム酸の使用方法
トラネキサム酸をシミに対して使用する方法には、内服、外用、イオン導入法などがあります。
それぞれの使用方法について、解説します。
内服
トラネキサム酸の内服は、肝斑やそばかす、老人性色素斑などのシミに有効であることがわかっています。
具体的には、1日750~1500㎎の内服を開始してから、2~3か月後には症状が改善するとされています。
ただし、内服を中止すると元の状態に戻ることがあるため、1年以上といった長期間の服用が必要となる場合があります。
用法用量を守り、服用に関してわからないことや不安があれば医師か薬剤師に相談するようにしましょう。
トランシーノでは、2か月間服用後に2か月間以上の休薬期間を設けて、症状が再発あるいはさらに症状の改善を得たい場合に再開するよう定められています。
外用
外用とは、皮膚に塗って使用することを意味します。
トラネキサム酸の外用では、トラネキサム酸の水溶液やトラネキサム酸のクリームが使用されます。
市販の化粧品にも、美白目的でトラネキサム酸が配合されていることがあります。
しかし、トラネキサム酸の外用だけでは十分な効果が期待できないことが多いため、グリコール酸やトレチノイン、ハイドロキノン、コウジ酸などを併用した方がよいです。
イオン導入法・エレクトロポレーション法
皮膚に塗るだけの外用療法よりも、高い効果を期待するための治療法としてイオン導入法やエレクトロポレーション法があります。
イオン導入法やエレクトロポレーション法では、人体に電気を流すことで、積極的に皮膚から有効成分を取り込めます。
内服や外用と異なり、日々の手間がなく、高い効果を期待できます。
一方で、治療時間が約30分程度かかることや心臓ペースメーカーが埋め込まれている患者では使用できないことがデメリットです。
その他、水光注射で投与する方法もあります。
トラネキサム酸の副作用
トラネキサム酸は、比較的安全に使えると考えられていますが、副作用が起きることもあります。
トラネキサム酸の副作用としては、下痢や腹痛、血栓、肝機能異常、白血球増加などが挙げられます。
血栓は稀ではあるものの、起きた場合には重症になる可能性があるので55歳以上の患者は服用前に医師に相談することとなっています。(トランシーノは、50歳以上への一般薬としての販売は禁止されています。)
トラネキサム酸を使い始めてから皮膚や体調に異常を感じた場合には、すぐに医師に相談するようにしましょう。
まとめ
トラネキサム酸は、肝斑やそばかす、老人性色素斑などのシミの治療で飲み薬として使用されますが、化粧品にも含まれていることがあります。
トラネキサム酸は、ハイドロキノンほどではないものの、肝斑や老人性色素斑などのシミに対して一定の美白効果を期待できます。
副作用が気になってハイドロキノンを使用できない場合には、トラネキサム酸を検討してみてもよいかもしれません。
ただし、トラネキサム酸でも下痢や腹痛、血栓などの副作用が起きることもあるので、トラネキサム酸を使い始めてから皮膚や体調に異常を感じたらすぐに医師に相談しましょう。
参考文献
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日本医事新報 4625:60, 2012.
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