日本においてピーリングでよく使用される薬剤は、グリコール酸、サリチル酸、トリクロロ酢酸、乳酸です。
トリクロロ酢酸は、他のピーリング剤に比べて、皮膚の深い層のピーリングをする時に使用され、陥凹のあるニキビ跡やシミに適応があります。
ただし、トリクロロ酢酸は適切に使用しないとピーリングによる傷跡が残ってしまうことがあるので注意が必要です。
ここでは、トリクロロ酢酸によるピーリング効果、他のピーリング剤との比較、副作用などについて、わかりやすく解説いたします。
目次
トリクロロ酢酸とは
トリクロロ酢酸は、ピーリング剤の1つで、シミやニキビ跡などに適応があります。
他のピーリング剤に比べて、皮膚の深い層をピーリングしたいときに使用されることが多いです。
例えば、他のピーリング剤で治療が難しいような大きいシミや陥凹のあるニキビ跡に対する効果を期待してトリクロロ酢酸が使用される場合があります。
ただし、トリクロロ酢酸は、蛋白と結合する力が強いため、塗布した皮膚に対して反応が強く出ることがあり、傷あとや色素沈着が残ってしまう可能性があるので注意が必要です。
低濃度のトリクロロ酢酸はゆっくりと細胞にダメージを与えますが、高濃度の場合には早期に細胞にダメージが起こると考えられており、使用時の濃度調整も重要です。
トリクロロ酢酸によるケミカルピーリングの効果
トリクロロ酢酸によるピーリング効果が出るメカニズム
トリクロロ酢酸を皮膚に塗ると、蛋白の変性や凝固壊死が起こります。
その後に、皮膚の再生が誘導されるので、シミの色調が薄くなったり、皮膚のコラーゲン増加により皮膚が若返ります。
実際に、人の腕の皮膚に40%のトリクロロ酢酸を塗布し、2時間後、6時間後、12時間後に皮膚の状態を観察した研究によると、2時間後に皮膚の細胞の増殖が確認でき、6時間後、12時間後には皮膚の全ての層において細胞の増殖を認めました。
このように、塗布した部位の皮膚をトリクロロ酸で壊死させて、再生を促すことによって皮膚のターンオーバーが亢進するので、シミやニキビ跡などへの効果を期待できます。
大きなシミや陥凹のあるニキビ跡への効果
トリクロロ酢酸は、他のピーリング剤に比べて、皮膚の深い層のピーリングに使用されることが多いです。
皮膚は、表面から角層、表皮顆粒層、基底層、真皮乳頭層、網状層で構成されており、ピーリングをする深さが角層までの場合には最浅層ピーリング、表皮顆粒層や基底層まで達する場合には浅層ピーリング、真皮乳頭層まで達する場合には中間層ピーリング、網状層まで達する場合には深層ピーリングと呼びます。
一般的なシミやニキビ、小ジワに対しては、最浅層ピーリングや浅層ピーリングをすることが多いですが、大きめのシミや陥凹のあるニキビ跡に対しては中間層ピーリングを行った方が改善を期待できます。
グリコール酸やサリチル酸などによるピーリングでは治療が難しいと判断されたシミやニキビ跡に対する改善効果を期待して、トリクロロ酢酸を用いた中間層ピーリングをすることがあります。
皮膚がんへの効果
トリクロロ酢酸は、シミやニキビ跡に使用されることが多いですが、皮膚がんに効果があるという報告もあります。
さまざまな理由で手術ができない患者の皮膚がんに対し、トリクロロ酢酸によるピーリングを行ったところ、改善したそうです。
具体的には、日光角化症に対してトリクロロ酢酸によるピーリングを行ったところ平均3回の治療で効果を認めました。
他にも、皮膚がんの1種である表在性基底細胞がんやBowen病にもトリクロロ酢酸によるピーリングが適応となると考えられています。
トリクロロ酢酸と他のピーリング剤との比較
日本において、ピーリングでよく使用される薬剤はグリコール酸、サリチル酸、トリクロロ酢酸、乳酸です。
それぞれのピーリング剤の特徴や注意点をまとめると、以下のようになります。
トリクロロ酢酸
トリクロロ酢酸は、中間層ピーリングの時に使用されます。
皮膚の細胞の活性化、コラーゲン産生促進などの効果を期待できます。
陥凹のあるニキビ跡やシミなどに適応があります。
局所での反応が強いため、塗布した皮膚に傷跡が残る可能性があるので注意が必要です。
グリコール酸
グリコール酸は、浅層ピーリングで用いられるピーリング剤で、他のピーリング剤に比べて使用される機会が多いです。
水溶性で、皮膚に浸透しやすいという特徴があり、皮膚の代謝亢進やハリの増加などの効果を期待できます。
グリコール酸の適応があるのはニキビやシミ、小ジワなどです。
高濃度のグリコール酸を使用すると、浮腫やびらん、かさぶたなどが引き起こされることがあります。
サリチル酸
サリチル酸は、最浅層ピーリングの時に用いられるピーリング剤で、皮膚の代謝亢進やハリの増加などの効果を期待できます。
サリチル酸は、ニキビやシミ、小ジワなどに適応があります。
比較的安全に使用できる薬剤ですが、血液中に吸収されるとサリチル酸中毒の危険があります。
乳酸
乳酸は、保湿効果が高く、皮膚の弾力性の増加やメラニン生成の抑制などの効果が期待できるピーリング剤です。
乳酸は、最浅層ピーリングの時に使用され、難治性のニキビに適応があります。
副作用として、浮腫やびらん、かさぶた、色素沈着などの可能性があります。
トリクロロ酢酸によるケミカルピーリングの副作用
トリクロロ酢酸は、蛋白との結合力が強いものの、塗布した皮膚の蛋白と結合すると作用を失います。
そのため、塗布した皮膚に対する副作用で傷跡や色素沈着が残ってしまうことはありますが、全身への副作用はありません。
また、ヒトにおける発がん性の報告はないものの、マウスでの肝細胞がんの増加が報告されています。
トリクロロ酢酸による副作用を減少させる目的で、トリクロロ酢酸によるピーリングの前に、トリクロロ酢酸以外の方法でピーリングを行う方法もあります。
具体的には、ドライアイスやグリコール酸などによるピーリングを35%のトリクロロ酢酸によるピーリングの前に行うことによって、50%のトリクロロ酢酸単独の治療と同様の効果を期待できるものの、副作用が少なくなるそうです。
まとめ
トリクロロ酢酸を皮膚に塗布すると細胞壊死が起こり、皮膚の再生が促進され、シミやニキビ跡などに対する治療効果を期待できます。
他のピーリング剤に比べて、皮膚の深い層までピーリングできるという特徴があります。
トリクロロ酸の副作用として、キズ跡や色素沈着などが起こる可能性があります。
副作用を少なくするために、他のピーリング剤による治療をトリクロロ酢酸の治療前に行うという方法もあります。
トリクロロ酢酸の治療効果や副作用をよく理解してから、治療を受けた方が安心です。
参考文献
日皮会誌 118(3): 347-355, 2008
J Environ Dermatol Cutan Allergol 4(1): 30-35, 2010
医学のあゆみ 232(13): 1300-1301, 2010
日美外会誌 37(2): 69-75, 2000